けんちくは、しばたまるです。
院進学を考えているけれど、選択肢がありすぎてわからない…!大学院は所属を希望する研究室や教授によって内容やその後の生活はさまざまです。
そんな中で最も特殊な大学院が、横浜国立大学大学院建築都市スクール、通称Y-GSA。
今回はY-GSAを卒業後、現在は某大手企業設計部に所属している田中裕大さんに、実際の大学院生活についてやカリキュラム、特徴について聞いてきました。
・Y-GSAへの受験を検討している
・Y-GSAがどんな大学院か知りたい
そんな学生さんは読んでみてください。
▼取材動画は下からご覧ください▼
目次
自己紹介と簡単な経歴を教えてください。
横浜国立大学大学院都市イノベーション学府、建築都市デザインコース、Y-GSA卒業、田中裕大
田中裕大と申します。
武蔵野美術大学の建築学科を卒業後、大学院は横浜国立大学大学院都市イノベーション学府、建築都市デザインコース、Y-GSAを卒業しました。
現在は某大手企業の設計部に勤めています。
横浜国立大学大学院建築都市スクール(Y-GSA)の特徴は?
一番大きな特徴はスタジオ制というところです。通常の大学院のように2年間1人の教授の研究室に所属するのではなく、4つのスタジオを1年に2つ、2年かけて4つのスタジオで学ぶスタイルです。1つのスタジオをインターンシップに変える事も出来ます。
スタジオの授業風景
私のときは4人の建築家がいて、どの建築家のスタジオを取るかという順番は自分で決め、2年間で4つのスタジオを経験しました。
密度としては4回卒業設計をするようなイメージです。修士2年の最後にはこれまで行った各スタジオでの作品を貫く軸となるような論を組み立てて修了となります。
今(2021年)は藤原徹平さん、西沢立衛さん、乾久美子さん、大西麻貴さん、妹島和世さんの5人がいらっしゃるので、そこから4人選ぶことになると思います。
また、海外の大学のように単位の取得がとても難しいのも特徴です。(私が在籍していた頃は、1つのスタジオが終わる毎に1~3人程度単位を落としてしまう人がいたと記憶しています。ただし、単位を落とした人の方がその後の成長率が高い、と常々言われていましたし、実際そうだったような気がします。)
どうしてY-GSAを選んだの?
正直に言えば、院進学を考える時に「この人!」と思える教授や研究室がなかったというのもありますが、
Y-GSAは建築家教育を謳っている大学院で、個性豊かな建築家それぞれの思想に触れることが出来るためY-GSAに決めました。
Y-GSAの建築学科のカリキュラムは?
基本的には半期1課題を4つ経験して修了となるのですが、当然大学院なので1年間を通して授業もあります。また、設計課題とは別に実施設計、コンペやリサーチなどを行う「インディペンデントスタジオ」というのもあり、課題と並行して行っていました。
あと、夏には海外のワークショップにも参加できます。昨今の状況は分からないですが、私の時はチリのカトリカ大学と合同でワークショップを行いました。最初にチリの教授が日本に来日し1週間グループ毎にチリのスタディを行い、その後、1週間チリの大学へ行き、カトリカ大学の院生と一緒にリサーチや提案を行うというものでした。
海外WSの風景
設計課題の特徴は?
私は北山恒スタジオ、藤原徹平スタジオ、西沢立衛スタジオ、小嶋一浩スタジオの順番で取りましたが、それぞれの特徴はたくさんあって語り尽くせないのですが…スタジオごとに特徴のある課題がありました。
通常の課題だと、「敷地が与えられて、プログラムがあって、その条件を満たしながら何かを設計しなさい」というものだと思うのですが、Y-GSAの課題はもっと抽象的でより根源的なものを問う課題が多かったです。
例えば、私が取り組んだ課題では、「ポストインダストリー(藤原スタジオ)」を考えるものがあって、それは「ある産業の先をどのように自分で解釈し、それをどの敷地でどのように表現するか」という課題内容でした。他にも「新しい時代の建築」(西沢スタジオ)という課題では、敷地もプログラムも規模も決まっていません。自分で「新しい時代の建築とは?」ということを考えて答えるというものがありました。なので、共通しているのは、自分の中で問を立てて、リサーチをして、その問の基盤となる思想を自分なりに表現する、というような課題だったと思います。(興味のある方はY-GSAの中間講評や最終講評を聞きにいくと良いと思います。鋭い批評が飛び交います)
実際に設計課題で何を作った?
当時の小嶋一浩スタジオの課題で、「再読」課題がありました。ある建築物を再読するという課題で、その時の対象建築はドイツにあるハンス・シャロウンの「ベルリン州立図書館」でした。
ハンス・シャロウンのベルリン州立図書館 1/50模型
スタジオのメンバーで1/50の大きな模型を作りながら、この建築や空間の特徴は何であるのか、それぞれの視点で読み解いていきます。そして、自分で発見したハンス・シャロウンの建築の特徴を別の敷地に当てはめる事で、建築を再読し設計するという課題でした。
課題のプレゼンシート
ベルリン州立図書館は、領域を規定する6つの領域軸が存在しています。閲覧領域を作り出す要素と、それらの閲覧領域を横断する要素が立体的に交差することによって、バラバラでありながら、ひとつながりの不均質なワンルーム空間が実現されているのが特徴だと読み解きました。ベルリン州立図書館は、都市のグリッドや隣接街区にあるミース・ファン・デル・ローエのナショナルギャラリーから軸線を決めているのですが、私はそれを東京の国分寺崖線の地形の線から領域軸を定めて、建築を作るというのをやりました。
どんな教授がいる?
教授は先ほど述べた5人です。課題を通して、教授も一緒に悩んでいるというのが印象的でした。スタジオで中間講評や最終講評があるのですが、自分が掲げた課題に対して指導してきた学生作品が他のスタジオの教授に批評されるので「果たしてこれが正解だったのか?」ということを常に問われるわけです。
自分のスタジオの学生が発表しているときに、他の教授から様々な批評が飛んで来るので、課題を出した先生自身も批評されている気持ちになるとおっしゃっていました。先生たち自身も絶えず自問自答しているというのが印象的でした。
Y-GSAならではの伝統行事
どの大学も追いコンがあると思うのですが、追いコンも創造性を求められたと思っています。過去の追いコンが見られるのですが、結構おもしろいことをやっていて。それが笑いというより創造的におもしろかったので、自分達がやるときはプレッシャーがありました。(笑)。
私たちの時は、船を借りて横浜港をクルージングしつつ、途中で動画とカルタをプレゼントしました。動画は、横浜駅からスタジオまでのバスの経路を長時間録画し、卒業生の顔写真を通行人に合成して卒業生の紹介をしたり、カルタは、Y-GSAでの生活の中で良く出てくる先輩や教授陣のフレーズを題材にしたものを作りました。卒業してもY-GSAの事を思い出せるような構成でプレゼンを作りました。スタジオ課題よりも寝ずに頑張ったような気がします…(笑)
先輩はどんなところに就職してる?
私ともう1名のみ就職活動をし、その他の同級生は9割程度アトリエ設計事務所に行きました。Y-GSAの教授の事務所に行く人もいますし、若手建築家の事務所、海外の建築家の事務所に行くのが多く、私のように企業に就職する人は少ないです。
院試はどうでしたか?
大学院の一般的な受験と同じで、学科とポートフォリオ、即日設計、面接があります。Y-GSAの場合は、学科も重要ではあるのですが、ポートフォリオと即日設計が重要視される印象があります。ポートフォリオと即日設計で自分の考えていることをきちんと表明する事が大事だと思います。
受験生へのアドバイスをお願いします
Y-GSAでは4つの課題に苦しみながら向き合います。
特に他大学から入るとこれまでと全く異なる建築教育を受けるので、学部までの建築の作り方では全然歯が立たなくなります。そもそも何故建築を建てるのか。そこを問う事から始まります。毎週のエスキースを通して、建築家の深い思想や建築という学問の一端に触れる事が出来ます。
今の時代は、いろんな情報が簡単に手に入る時代だと思うのですが、自分の考えや思想は調べても出てきません。2年間、毎日毎日ずっと建築について考え続けられる環境というのは、とても貴重で特殊なことです。入学したら是非そういう特別な時間を過ごして、自分だけのオリジナルな思想を創り上げてほしいなと思います。
おわりに
田中さんどうもありがとうございました!
ぼくは巨匠になりたい。の更新情報は公式LINEから受けとれます。こんな所に取材して欲しい、こんなことが聞きたいなどの声も書き込んでもらえると嬉しいです。